Ruriko's naisentaiken

エルサルバドル内戦体験記

理論的崖の修理

少し頭にきている。

崖の修理をしようと主人が言うから、また、どろどろの作業着を着こんで、懸案だった、一番上の段の杭に横木を選んで組み立てていたら、ふと、用事があって降りようとしたら、私が足場として仮に組み立てておいた4段目の段から、枝を半分も取り払ってしまって、下の段は、ゴミの山のようになっている。

主人に言わせると、その段は足で踏んでもふかふかしていて、土留めの意味がないから、全部取って、土を入れる方がいいというのだ。

私は、どんなに仕事が途中でも、手順を考えて、使うものを置くから、あんなに広いところを、どうしようもないゴミの山にしたことはない。おまけに一番上の段で仕事をしていたのだから、足場を取り払われたら、下りることができない。私のコンパスは長くないだけじゃなくて、今、片目が見えないのだ。

主人に、文句を言ったら、彼、理論ばかり言っている。理論はどうでもいい。今、私が足場をなくして下りられないのだ、と言ったら、ぶよぶよの枝を置いて、その上にコンクリートブロックを置いたから、そんな重いものをぶよぶよの枝の上においたら、重心を失って、ひっくり返る、足場を戻してくれというのに、また理論を言い始めた。

実は、彼が日本語を習い始めたときもそうだった。時間を決めて会話を教えてくれというから、始めたのだけど、ちょっとした問題に引っ掛かって、理論を武器に責め寄ってくるから、これは、言語論ではなくて会話なんだ、会話というのは、やみくもに聞いた通りを繰り返せ、そうしないと、日常会話が身につかない、と言って、けんかになった。

私がとうとう音を上げて、家族に教えるのは、感情が入りすぎてダメだから、どこかの日本語教室にいってくれと言って、どこかの教室を探して追い出したことがある。で、彼、教室から帰ってきては、私に理論的説明を迫った。日本語は同音異義語が凄く多い原語だ。同じ読みでもアクセントというか、音程の違いで意味が変わるもの、使い方によっては意味が変わるもの、二重三重の意味を持つものと、複雑で、彼はそういうところでつまずいていて、とうとう、教室でもうまくいかなかったらしく、日本語が達者にならないのは、私のせいだということになっていた。

私は、崖の階段をどう言う理由で、組み立てたかを説明すると、途中で遮って、自分の理論を言うので、もう、私は一番上の段に登ったまま下りられなかった。

とにかく、私は片目が悪いんだし、降りたいんだ、おしっこするんだから背中貸しておんぶして降ろしてくれ、そうしないとここにするぞ、と脅したら、やっと下ろしてくれた。

午後になって、私は黙々と、主人が反対した一番上の壇上に、横木を通して、土を埋め始めた。その土を固めてよこぎをおちつかせ、ほら、こうしようと思っていたんだと言ったら、物を見てやっと納得した。

こんなめちゃくちゃにしちゃって、帰国までに直して行ってくれるのかな…