Ruriko's naisentaiken

エルサルバドル内戦体験記

癌と戦う

癌の発覚以来、娘は何とかして前向きでいようと、「努力」していた。がんの発症した「理由」を突き止め、自宅の水道の水の鉛汚染を発見し、癌が自分を鉛から守ってくれた、などと言っていた。

彼女は癌にさえ感謝していた。少なくともそういう状況を、前向きの方向に自分に言い聞かせながら生きてきた。

でも彼女の心の中は、不安でいっぱいだということは、時々突発的に見せる苛立ちによる逆上から、私にはわかった。逆上は、幼い息子に向けられた。間に飛び込んでいって、彼女を犯罪から守り、息子を危険から救うため、渾身の力を込めて私は彼女を取り押さえた。

再手術の可能性が浮上してきてからは、彼女は目に見えて、弱ってきた。自分の研究から、動物性のものを接種すると、癌を増殖させると言い始め、体内に入った鉛のためには、熱い物は摂取できないといい、極端に食物を制限した。

今、体を変えてやれない「他人」である私は、破たんしそうな経済を、どのように立て直すか、ということしか頭にない。たぶん、こういうときに人は犯罪にさえ走るのだろう。