Ruriko's naisentaiken

エルサルバドル内戦体験記

婆さんでもまんざらではないぞ^^

朝は土砂降りだった。今日は家にこもって、何をすればいいんだろう、と考えた。杭をとってきたかった。雨の降る空を恨めしく見上げた。
 
仕方ないからチャットをしていたら、雨の音がしないのに気がついた。もう9時になっていたので、ビバホームはそろそろ開店だ。急に行く支度を始めた。ありったけの麻袋と、紐と、ビニール合羽と、お金を持って自転車に乗った。わずかな霧雨のような雨を感じたが、何とかなるだろうと思った。
 
ビバホームについた。大小60本の杭を係の人が車のついた大きなワゴンに乗せてきた。「自転車で持って帰る」と聞いて、そこいらにいたみんなが、「できっこない」とざわめいた。まあ、何とか載せてみて、できないものはもう一度来るから預かってほしいと、一応頼んで置いて、ジグソーパズルを楽しみながら、杭を自転車に積んでいたら、駐輪場にしゃがんで煙草を吸っていた男が、「一度で持って行くの無理だよ」と、また余計なことをつぶやいた。
 
面倒だけど、「まあまあ、できるだけやってみるから」と返事をして置いて、あらかじめ持って来た紐を使って、数本ずつ固定しながら、載せたら、案外全部のってしまった。あとはバランスだけど、バランスを考えながら均等に積み込んだつもりだ。動かないようにしてある。
 
山と積んだ杭を載せて、かなり用心しながら、そろそろと運び始めた。確かに凄い重みを感じる。しかしタイヤがついた車輪というものは立派なものだ。重荷を載せてくるくる回って、進んでくれる。この上に自分が乗った時に、うっかりするとバランスを崩したらアウトなので、凸凹した道は下りて歩いて、平坦なところで一気に走りだした。「一気」でないと危ない。
 
自転車って、素晴らしい乗り物だと、今さらながら感じながら、若い男たちが寄ってたかって、「できない、できない」と連呼していた仕事をやっている自分に、なんだか、快感を感じた。婆さんも、馬鹿にしたもんじゃないぞ^^。
問題は、上り坂だ。今まで、こんな重いものを運んで坂を登ったことがないから、やっぱり少し心配だった。それで、上り坂にさしかかる前に、モードをオートマチックからパワーモードに切り替えた。
 
初めてのことだ。速さを楽しむ気持ちは、自転車を動かし始めてから、一切持っていなかったから、あえて電力を費やするパワーモードにしたことはなかった。しかしこの重さで、上り坂は、いくらなんでも婆さんの腕では、無理だと、悟った。
 
パワーモードで何とか、坂を登り切り、今度は、信号のある十字路。ここは直線だと歩道が斜めになっていて、三輪車の後ろに荷を積んでいるときは危ない。そこで、信号をまっすぐ行かないで、わざわざ右折して道の平坦な方を選んで何とか切り抜けた。
 
ところが、そこで、突然雨が降り出した。これは邪魔な雨だ。パワーモードをそのままにして、とにかく急いだ。自転車用のヘルメットは穴が開いているから雨よけにはならない。ビニール合羽を出すよりも、あと少しで家だから、雨の中をそのまま突っ走ろう、と、思った。
 
もう、途中から祈り始めた。何とか家まで辿りつけますように、何とか守ってくださいよ!いいきなもんだね^^。これこそ都合のいい時の神頼み。
 
重みと雨でぬれたせいか、車がガキンガキンと音を出し始めた。危ない!ここで自転車が壊れたら、アウト!必死でゆっくりとこいだ。壊れないように、壊れませんように、また、神頼み^^。
 
家の前の最後の坂を登り切り、そこでいったん止めた。大きく鋭角に曲がらなければ家につかないのだけど、なにしろ角が鋭角だから、よくここで転んだのだ。
 
しかし、大荷物を積んだまま、一度止めたら手動なんかじゃ梃子でも動かない。仕方ないから、荷を少しずつ降ろして、家まで運び、やっと自転車を中に入れたときは、体もずぶぬれ。
 
風呂に飛び込んだ。雨はそのあと、ひとしきり降り、止んだ。今日中に、杭にクレオソートを塗って、明日は、また山仕事をしよう。仕事の段取りができただけ、うれしかった。こういうものは、ちょっと休むと、気力を盛り返すのに時間がかかり、続かないことを知っているから。