Ruriko's naisentaiken

エルサルバドル内戦体験記

だんだん意味が・・・

変なことを言うようだけど、日本人は言霊民族だ。言霊の力を多くの人が忘れてしまったらしいけれど、今の私のように、精神的な大打撃を受けて、肉体が健全な状態で機能しなくなると、言霊だけが頼りになる。

言霊の通じない人が空しい言葉を発しても、空しい言葉は雲散霧消してしまう。本物の優しい言葉と、自分の満足のために、福祉の対象を見つけて喜んでいる趣味的な救援の言葉とが、あまりにも明確に分かってしまい、私の心を引き裂いた。誰にだって、こんな異常なことはわからない。しかし自分がわからないことを分かってほしい。

今、私は正直、苦しい。食べても消化せず、歩いても雲の上を泳いでいるように感じ、さすがの土いじりもできなくなった。

あの時。私は魔性に魅入られていた。完全な催眠術にかかっていて、相手の言葉にどんどん引っ掛かって行った。正常なら、持てるはずの疑いを、一瞬たりとも持たなかった。正気に戻った今。帰国して30年間、死に物狂いで仕事をして、自分のために楽しみも求めず、ひたすら家族のために爪に火をともす思いで貯め続けた資金を、1月のうちにかすめ取られたことに気がついた時、慙愧の思いが私を苦しめる。

しかも、だんだんだんだん目が覚める。明確にすべてのことを思い出す。演じた芝居の4人の主演俳優のせりふの一つ一つを思い出す。脇役の窓口の応対も思い出す。背景音の会社の喧騒も聞こえていた。

今さらあの亡霊たちを思って苦しんだって、意味がない。

自分の生命維持のために、先に進むしかない。明日生きるために、1円でも多く集めなければならない。ところが足がすくんでいる。めまいと胃痛で、いったい来週、路上に立てるかわからない。友人たちの親切を無駄にするつもりはさらさらないのに、足がすくんで動けない。

ああ、私は、パソコンのキーだけは打っているなあ。カラマーゾフのイワンが己を見ながら己の行動を観察し、己の心理を分析している。ああ、私はまだ生きているんだなあ。

朝2時ごろ、パソコンを開いたら、太平洋の向こうから夫が声をかけてきた。12月に帰るという。

今すぐ来てくれと私は言った。もうもたない。娘が友人に食べ物を手配したらしい。私は食べ物が欲しいんじゃない。食べ物があったって食べても消化しない。私に必要なのは、支えなんだ。家の中に影でも良いから誰かの気配があってほしいんだ。その影は、鈍感の無神経の福祉の対象を見つけて自己満足に大喜びのわんわん鳴けば犬も同然のやつじゃ逆効果なんだ。私は昨日、それで頭に一撃を受けて、立っていられなくなったんだ。今日、私は歩けない。どうしていいかわからない。

それらをすべてスペイン語で書いた。事態を家族は察したらしい。早めに来ると言ってきた。その言葉で、私の神経は落ち着いたらしい。仕事の都合上これなくても、彼の言霊が私の神経をいやした。