Ruriko's naisentaiken

エルサルバドル内戦体験記

江戸川沿いを走る(2)

「江戸川沿いを走る」(2)

少し焦りながら、ひたすらに走っていたら、遠くにまた、行く先を横切るような橋の景色が見え、しかも、川が右に曲がっているようだな、と感じた。あたりを見回したが、どうしても標識というものが見えない。もしかしたら、利根川につながる道路かもしれない、昨日地図で調べたので、そう思った。

もう、誰もいない。とうとうその分岐点にたどり着いたので、自転車を降りて、地図を見た。道があっちに行ったりこっちに行ったりしているのに、そこにも標識がない。だから、手持ちの地図上を探しても、どうもどこに当たるかもわからない。四苦八苦しながら地図を調べていたら、後ろから、声をかける人がいた。

振り向いてみると、なんだかすごく興味深そうな目つきで、こちらを見ている。

「何を調べていらっしゃるんですか?」と地図を持った私に聞いてくる。

お!好都合^^。

私はそのおばさんに、現在位置を聞いた。

そこは、勘を働かせて考えた通り、利根運河で、右折してずっと行くと、利根川にぶつかるらしい。その運河を挟んで、北上すると、野田市に行き、なんか清水公園とかいう公園があるという。

知らない公園だけど、そのおばさんの目の輝きを見ると、いい公園なのかもしれない。いつか行こう。こういう出会いが、こういう散歩の楽しいところなんだ。運河に沿っていくとどこに行くかを聞いたら、遠くにかすかに見える通りを指差して、あれが、流山街道だという。

そか。流山街道なら、知っている。凄い交通量だから行きたくない。そのおばさん、親切な人で、そのあたりの「観光」をいろいろ説明したついでに、私の自転車と地図を見て、凄く目を輝かした。

この自転車、いいですねえ。これで毎日地図持って、いろいろ探索していらっしゃるの?素敵ですねえ、いいですねえ。帽子からはみ出した白髪を見ながら、彼女は本当に愉快そうに言った。

ほう・・・。私の偏屈趣味を面白いと思ってくれるのか。にわかに私もいい気分になった。この趣味、今年の6月あたりから始まった趣味だけど、実に孤独な趣味だった。この話をすると、人は私の年齢から、気をつけろ、無理するな、危ないよ、年齢を考えろ、と言ってけん制ばかりしてくることを知っていた。婆さんのくせにいい加減にしろ、と、意味もなく利害もなく、友情もないくせに、ただただ牽制ばかりしてきた。

それが、遠くの空を見ながら、汗だくになって、爺婆用の三輪車を走らせて、松戸から1時間もかけて、知りもしない道を探している私を、彼女は惚れぼれするように、面白そうに眺めた。それが、凄くうれしかった。生まれたときから気違いの誉れ高かった私には、1000人に一人ぐらい、存在を認めてくれる人がいることを、知っていたけれど、このところ、会うやつ会うやつ、他人の年齢のことばかり言ってきた。私がどんな年齢だろうと、楽しみながら死んだっていいじゃないかと、私はむかっ腹を立てていた。

しかし、このような一瞬の出逢いの喜びは、胸に秘めておこう。長居は無用と、我に返った。

右足にかなり痛みを感じていたので、今日は、だいたいわかったから、出直すことにします、とそのおばさんに別れを告げて、自転車に乗って引き返し始めた。

もう、東に太陽が、かなり昇っている。まぶしいなあ。太陽を避けながら走っていたら、あの「ちょーでかい交差点」から登って来た道路が見えたが、遠くから見ると道路の都合で、左折ができないように見えた。それで下り坂の右の道を取ったら、その道が河川敷のほうに降りる道で、花火の残骸が散らばっている広場に出てしまい、下りてきた自転車道ははるかかなたに見えた。

美しい景色に堪能した私は、河川敷の花火の残骸を見たくなかった。仕方がない、急いで引き返し、今度はうまく道を見つけて、まっしぐらに家に帰ったら、8時15分前だった。