Ruriko's naisentaiken

エルサルバドル内戦体験記

「たらちね」考

「たらちね」考
 
「たらちねの」という古語は、「母にかかる枕ことば」と、高校の国語では教えている。しかし、高校の国語では、「たらちね」の本来の意味を教えない。だから現代語の頭で考える人は、「垂れた乳房」の形状だと思うらしい。
 
そんなはずがないと思った私は、セイコーの電子辞書と、手持ちの広辞苑と、同じく手持ちの古語辞典を調べてみた。インターネットの検索は、こういうものに関する限り、いい加減だから、調べていない。
 
セイコーの電子辞書によると、
「足乳根、垂乳根」と漢字表記し、
(乳を垂らす女、また乳の足りた女、満ち足りた女の意)
1)女親、母、たらちめ。金葉和歌集(雑)「たらちねは黒髪ながらいかなればこの眉白き糸となるらむ」
2)ふたおや。父母。今鏡「たらちねはいかにあはれと思ふらむ三年になりぬ足立たずして」
3)(母を意味する「たらちめ」の語が生じたことから父親。拾玉集(1)「たらちねも又たらちめもうせはてて」
なお、手持ちの広辞苑は第2版で、昭和45年の物。古いが、セイコーの電子辞書とそれほど変わっていない。
結論として、「たらちね」は乳の形状ではなくて、子持ちの女性の豊かに流れる乳のことで、「垂る」は「足る」に通じ、健康な母親。赤ん坊も産んでいない、ばあさんになってしぼんで垂れる乳房の形のことを言うのではないということは確かだ。
 
ただし、3から推察すると、本来「母」を意味した言葉は、「たらち女」(乳を垂らす女)であって、「たらちね」は父だったらしい^^。「女性が孕んで赤ん坊ができて、それを育てるための乳が垂れる原因となった」父だから「たらち」根?ちょっと滑稽。でも、そうかもしれない。
 
古来、「乳」は豊穣の象徴だった。現代ほど一方的に女性の体の形状なんか取り沙汰しなかった古代、乳が出ない女(つまり石女ーうまずめーと読む)なんか、男性の精子に問題があるということは棚上げにして、生きる価値のない女だった。そういえば、聖書の世界でも、「蜜と乳の流れる地」は人間の幸福を約束する土地だった。そう呼ばれたパレスチナはいまだに自民族だけの豊かさを求めるイスラエルパレスチナの係争の地となっている。
 
激しく脱線・・・。