Ruriko's naisentaiken

エルサルバドル内戦体験記

チンドン屋

12月9日

昨日、ちょっと孫のために、クリスマスツリーを飾ってやろうと思って、いろいろ準備していた。イエス誕生の厩の置物は、娘が持っていたものがあまりにグロテスクで見ていられなかったので、赤ん坊のイエスの顔だけを、自分で塗りつぶして描き換え、他のグロテスクな人形は取っ払って、その周りに花を飾りたかった。

とりあえず、ほしかったのはポインセチアポインセチアは、この国ではごく当たり前の植物で、クリスマスじゃなくても自然の状態でそこいらで見られる。大きく育つから垣根にでもなり、ポインセチアの垣根は真っ赤でものすごい。だから、昔はこの国では小さな鉢に入ったポインセチアなどというものを部屋の飾りとしては思いつかなかった。それが最近、この国でも、クリスマス時期になると、日本の花屋見たいに鉢に育てたものが売られている。

ポインセチアを買って、クリスマスが終わったら、裏庭に植えようと考えた。裏庭はほとんどの木々を切り倒してしまって砂漠状態になっているから、赤いポインセチアが禿げた壁を覆ったらきれいだろう。そう思ったので、娘を誘って外に出た。この前行った植木屋兼レストランに、売っているはずだと娘が言う。それを聞いて孫も一緒についてきた。彼のもくろみはアイスクリーム。しかし外に出たのがもう夕方4時すぎだったので、夕食前はだめだと、約束させた。

ところで外に出たら、通りは人が大勢出ている。何かあるのかなあ、と思った。8日はカトリックでは「無原罪の聖母」の祝日だけれど、それだったら、宗教的な行列のはずなのに、どうもそうではないらしい。爆竹が鳴り、なんだかすごい音楽が聞こえる。まだ何も見えない。娘が通りの人に何があるのか聞いたら、お婆さんが何か答えていた。聞き取れなかったので、何が起きるの?と娘に聞いたら、「チンドン屋が通るらしい」という。

チンドン屋ねえ…私の世代の人間なら、「チンドン屋」という言葉も、その物も、有効だからわかるが、30代の娘は日本育ちでも、本物のチンドン屋など見たことがないはずなのに、口をついてそんな言葉が出てくるのは、不思議だ。しかも、エルサルバドルで、「無原罪の聖母」の祝日に「チンドン屋」ねえ・・・

あまりに滑稽なので、笑い始めて止まらなくなった。

ところで通りに出て待っている人々の間を縫って、先に行くと、全く「チンドン屋」としか表現できない代物が進んできた。初めは馬。操り慣れていないらしく、馬はあちこち動いて危ない。それから破れラッパを吹いたりドラムを鳴らしたりしている楽隊。この国に来て本物を見たらわかるが、日本みたいに小学校のころから音楽教育の基礎を受けている人間の耳には、歌も音楽も、大笑いしたくなるほど音痴だ。で、そういうのはものすごい音響でやってきた次には、ミニスカートはいた婆さんやこれ、真面目に化粧したのかいなと思われるような、女性たちの踊り。それから竹馬に乗った着ぐるみ人形のグロテスクな群れ。

飴玉を撒いたり、Tシャツを投げたりしているおばさんの乗った車。ラッパの楽隊が、どのように聞いたってsilentとは聞こえない、騒々しいsilent nightを演奏している。私の感想は、ただただ「ひゃあ!!!」

何しろこの行列、何に焦点があるのかわからないのだ。神輿があるわけでなく、楽隊の姿はヨーロッパのどこかの儀仗兵をまねたらしい姿で、踊る女性たちにまったくの統一がなく、竹馬に乗った着ぐるみ人形も、アニメキャラクターというわけでなく、昔の日本の「チンドン屋」にだって、まだ言うべき何かが伝わったものだ。

それで、孫が喜ぶから、ゆっくり歩いて、投げられた飴玉の一つを拾って、目的地に向かった。

ところが、目的地には、ポインセチアが売り切れでなくなっていたので、たまたま見つけたホテイアオイを買い、それからスーパーに寄って、ポインセチアを3株買ってきた。