Ruriko's naisentaiken

エルサルバドル内戦体験記

合掌

7月9日

主人が持たせてくれた750ドルに手持ちの20ドルを加えて円に換金したのだけど、59700円という情けない金額だった。何とかして、3カ月持たせなきゃ、そう思って、全部口座に収めた。

久しぶりに婆チャリに乗った。なんだか怖かった。でも少なくとも、自転車以外は日本は「大体の人が」交通規則を守る。すぐに慣れて、換金のできるゆうちょの本局まで行ってきた。

その足で、駅のそばの奇木屋に寄った。奇木に絵を描くのなら、原価が安くつくから、娘が盛んに勧めていた。この際、娘の意見を入れようと思った。

奇木はなかったから、切ってもらおうと思って、以前良く対応してくれた若い青年に会えると思ったけど、その親の爺さんが出てきた。

形の珍しい、小さな木を3つ切ってもらって、中位の丸いのを切ってもらったけど、それ以上爺さんは動かなかった。それで、息子さんはどうしたのかと聞いてみた。

爺さんは答えた。苦しそうに。

息子、自殺したんだ。

え!

逝ってしまった。みんなに聞かれるけど、どう答えていいかわからない。鬱になって、逝ってしまった。

私は声も出なかった。こんな悲しい知らせ、どう、対応して良いかわからない。

黙って合掌の姿勢を取ったら、爺さん、娘が藍染めやっているから見てくれと言う。隣に住む娘の庭先まで案内された。

娘はこういう事をやっている。二男がいて、それが材木の方手伝うと言っているけど、俺は何もする気がないんだ。

そお。

庭に掛けられていた藍染めのシャツを見て、なかなか良いなあと思ったが、値段が高くて、今の私には、手がつけられなかった。何もしてあげられない。でも、奇木をもっと切ってくれたら、また買うからと言って、帰路についた。

うちにも悲しい事情がある。でも、爺さんはもっと悲しいだろう。お釈迦様の話、思い出しながら、自転車をこいだ。

娘を亡くして、生き返らせてほしいと、お釈迦様に泣きついた女性に、街中を回って、死者の出たことがない家を探してきたら、あなたの娘を生き返らせる薬をあげよう、みたいな事を言ったお釈迦様の話。女性は娘生き帰らせてほしさにその言葉を聞いて、街中を訪ね歩き、死者の出たことがない家を探したが、見つからなかった。そうするうちに、は、と気がついた「娘を亡くしたばかりの」女性が、お釈迦様のいわんとしている事に気がついて、帰依したというような内容だった。

不幸は自分だけではない。自分の不幸に苦しんでいる最中は、他人の不幸に気がつかない。人はみな同じように苦しみの中を生きているさだめだ。

あの爺さん悲しかろう。後継ぎの長男が自殺してしまった。でも私は爺さんの苦しみを共有できない。わかるのは、苦しいのは自分だけじゃない、そういう事実だけ。

心が沈んでしまった。合掌。赦されよ。